第38話「唯一の曜日」

長編小説

 木曜日はチア部も、サッカー部も活動がなかった。平日の中では唯一の曜日だった。

 終礼後、涼は廊下の壁に寄りかかり、日直が終わるのを待っていた。その途中、ほうきを置きにきた俊平が「沙紀待ちか?」と訊いてくる。

「ああ、うん」

「この後、どっか遊びに行くんだろ?」

「行かねえよ、別に」

「じゃあ、先週の日曜日デートしてただろ?」

「先週の日曜日? いや、試合があっただろ」

「試合後だよ、試合後。試合後にデートしただろ?」

「いや……その日は会ってもねえよ。というか、さっさと掃除しろよ」

 そう言うと、俊平はほうきをしまいはじめて、教室に戻る際に横腹を突こうとしてきた。涼は「やめろ」と伸ばしてきた手をはじいて、「だから、さっさと掃除しろって」とくり返した。

 ようやく教室に戻らせたとき、沙紀が「あと先生呼ぶだけ」と入れ違うように声をかけてくる。どうやらゴミ捨てから帰ってきたようだ。

「ああ、うん。分かった」と涼は答えた。

 その後にサッカー部の仲間が通りかかり、俊平のようにからかってきたけど「うるせえよ」と軽く受け流した。どいつもこいつも、とも少し感じた。

 それから約十分後、日直の仕事がすべて終わり、沙紀と並んで廊下を歩いた。三組の前には誰かを待っているのか、秋穂の姿もあったが言葉を交わすことなくすれ違った。

「さっき俊平と喋ってた?」と沙紀が唐突に訊いてくる。

「ああ、うん。喋ってたよ」

「やっぱり…」と彼女は小さく笑った。

「なんで?」

「いや、さっき廊下を歩いてて、デカい声が聞こえたから、絶対に俊平だなあって」

「ああ、そういうことね」

「声だけですぐに分かったよ」

「ほんと声デカいからね、あいつ」と涼も小さく笑った。「まあ、キーパーっていうのも大きいんだろうけど」

「キーパー? ああ、声を出すポジションだからってこと?」

「うん、そう」

「試合中はもっと大きいの? 俊平って」

「うーん、どうだろう…」と涼は少し首を傾げた。「いや、別にサッカーのときは気にならないけど、普段がうるさいんだよ」

「ああ、普段がね」

「たぶん百回以上は『うるせえ!』って言ってきた気がするよ、これまでに」

 その後、二人は応援ダンスについても喋ったりして、沙紀がサッカー部の練習に影響はないのかと訊いてきたので、青組はほとんど放課後に練習しないから大丈夫だと答えた。

 というか応援ダンスに入る前に、俊平が青組のメンバーに訊いてくれていた。いつどこで練習するのか、部活動を優先してもいいのかなどだ。

 そこで放課後に練習することもあるけど、部活がある人は参加しなくてもいいことが分かった。実際に部活で参加しなくても、何かを言われることもなかった。勝手なイメージで、少し誤解していた。

 ただ、緑組は一応自由参加ではあるものの、なるべく放課後の練習も行かないといけない雰囲気があるそうだ。といっても、全員が参加しているわけでないようだ。

 「サッカー部の練習に出れないなら、そもそも参加してないよ」と言うと、沙紀は「まあ、そうだよね。キャプテンが練習にいなかったらまずいもんね」と答えた。

 二人は正門を通り抜けて坂道を下り、小さな改札を通って電車のホームを歩いた。

 時刻表とかが載っている案内板の前で立ち止まり、次の電車が何分後に来るかを軽く確認してから、再びホームの奥のほうへと歩くことにした。

 結局誰も並んでいなかったのもあり、最も奥にある場所で立ち止まった。電車でいうと、先頭車両の先頭ドアだ。

 ホームには帰るタイミングがよかったからか、せいぜい二十人程度しかいなかったし、多くが改札から近いところに並んでいた。

 沙紀が喋っている横で海のほうを眺めていると、俊平らしきやつが自転車を転がして歩いているのが見えた。隣には、スカートを履いた小柄な女子がいる。目が悪いわけではなかったけど、さすがに遠すぎて分からなかった。

「あれ、俊平じゃない?」と沙紀が途中で話をやめて訊いてくる。

「うん、俺も見てた。やっぱり俊平だよね、あれ」

「ああ、俊平だよ。隣にいる子はサッカー部の子じゃない?」

「あれは……秋穂? ああ、秋穂だ」

「秋穂ちゃんってサッカー部の子だよね?」

「うん、そう」

「あの二人って付き合ってるの?」

「いや、知らない」

「…あれ、たぶん付き合ってるんじゃない? 今度訊いてみようよ」

「いや、別に訊かなくても、いつか分かるでしょ」

 二人は海岸沿いの歩道を歩いていて、ホームで見ている二人には気づかず、そのまま背を向けて通り過ぎていった。

 その途中、沙紀は「『俊平!』って呼んでみる?」と言ったが、涼は「いや、いいよ。そんなことしなくて」と即答した。

 その後に「秋穂ちゃんって、どんな子なの?」と訊いてきたので、いつ頃入部してきたかとか、すごくおとなしそうな女子だと話した。

 何を見て思ったのかは分からなかったけど、沙紀は「何か大学生になったらモテそうだね」と言ってくる。涼は「ああ、うん」とだけ答えた。

 ちなみに沙紀は、彼女とは一度も喋ったことがないそうだ。ただ、麻里と仲がいい友だちであることは知っているようだった。

 電車のアナウンスが流れはじめたとき、沙紀は「前から一つ訊きたいことがあったんだけど…」と少し神妙な表情で言った。

「訊きたいこと? 何?」

 そう言うと、彼女は急に地面のほうを見ながら黙りはじめた。涼は「…うん? 何? どうしたの?」と再び気になって訊いた。

「いや……なんで麻里のことが好きだったのかなあって」

「えっ…」と涼は予想外の質問に返答に詰まった。「…なんで? 別に好きじゃないよ」

「ううん、もう分かってるよ」

「いや――」

「別に怒ってるわけじゃないよ」と彼女は遮って言った。「ただ知りたいだけ。少し気になるの」

「だから好きじゃないって」

「ふうん、そっか…」と彼女は視線を合わせずに答えた。「まあ、それならいいや、それで」(第39話に続く)

第39話「本当はやりたくない」

タイトルとURLをコピーしました