第29話「その後の反響」

長編小説

 やっぱり、お似合いだった。もちろん、涼と沙紀のことだ。

 二人が喋っていると、もう二人だけの空間となっていた。あの中に割って入ることは、少なくとも自分にはできなかった。二人ともスタイルがいいから、二人が揃うと結構な迫力もあった。

 もちろん二人は怒ったりしないだろうけど、そう分かっていても話しかけるのは難しかった。そんなことができるのは俊平くらいだ。

 また三学期の席替えにより、二人は隣同士となっていた。十分休みも席に座ったまま喋り続けているから、俊平以外で話しかけに行く人はほとんどいなかった。もし涼とかに伝えないといけないことがあったら、沙紀と一緒にいないタイミングを狙うような気がした。

 二人が付き合いはじめたきっかけとして、沙紀がメールで告白したと噂されているけど、あれは本当のようだった。彼女自身から聞いた話だ。

「うん、すごい緊張したよ」

 木曜日の放課後、沙紀と廊下で喋っているときに打ち明けられた。

 彼女はメールで告白したことを隠そうとしないどころか、そのときの気持ちまで笑いながら喋ってくれた。どこにも嫌味を感じさせないような笑顔だった。

 どちらかというと、涼のほうが嫌がっているようだ。あちこちで噂されていることに、少しイラついているようにさえ見えた。

 練習前の部室で、俊平から「どうやって告られたんだよ」と訊かれ、涼は「知らねえよ」と言い返していた。

 俊平が「お前が知らないわけねえだろ」と言うと、涼は「うるせえよ。しつこいんだよ、もう」と怒りはじめ、そそくさとスパイクを持って部室から出ていった。俊平は「俺、何か悪いことでも訊いたか?」と少しキョトンとしていた。

 男子部員の一人が「あんまり訊かれたくないのかもね、涼は」と言ったけど、俊平は少し首を傾げていて納得がいっていないようだった。

 麻里は教材をしまってから弁当を取り出し、秋穂のいる席へと向かった。彼女は修正ペンで文字を消しているところだった。

「何してるの?」と麻里は分かりながらも訊いた。

「あっ、いや、ちょっと間違えちゃって」

「数学?」

「うん」と秋穂は頷いた。「これ残り少なかったから強く押したら、急にいっぱい出てきちゃって」

「ああ、いま伸ばしてるのね」

「そう。ちょっと出しすぎちゃった」

「修正テープにすればいいのに。修正テープのほうがラクだよ」

 そう言うと、秋穂は「修正テープも持ってるよ」と大きめの筆箱から取り出さずに軽く見せてくる。麻里は「ああ、両方持ってるタイプね」と弁当を開けながら答えた。

 少しすると、秋穂はノートや修正ペンを片づけ、カバンから小さな弁当を取り出した。

 そのタイミングで、麻里はいとこのかわいい男の子に会ったエピソードを話しはじめた。本当は涼と沙紀の話もしてみたかったが、彼女の前では話題にしないようにしていた。涼と沙紀が同じ教室にいるのもあったけど、それだけではなかった。

 赤ちゃんを抱いた感覚とかを話しているとき、俊平が「えっ、マジで? トキ先輩受かったんだ!」と大声で言うのを聞いて、麻里は「ああ、そうだ。先輩、ちょうど受験中か」と思い出した。ちなみにトキ先輩は、サッカー部の時田ときた先輩のあだ名だ。

「ああ、そうだね」と秋穂は言った。「もう終わってる人もいるかもね」

「あー、香苗先輩どうだったんだろう」

「香苗先輩?」

「えっ、秋穂知らない?」

「あっ、いや」と彼女は小さく首を振った。「あのマネージャー――」

「そう」と麻里は遮って答えた。「私が唯一連絡先を知ってる先輩」

「そうなんだ」

「あれ? 秋穂は被ってなかったっけ?」

「ううん、被ってない」

「…ああ、そうだね。私が一人のときに入ったもんね、秋穂は」

「うん」

「えっ、会ったことは?」

「うーん、何回か会ったというか、顔は見たことあるよ」

「喋ったことは?」

「ううん、喋ったことはない」

「そっかあ…」と麻里は少し上を見た。「今度会って喋ってみる?」

「香苗先輩と?」

「うん」

「えっ…」

「いや、香苗先輩はほんと優しいから大丈夫だよ。本当に優しいから」

 その後は会う、会わないの話ではなく、香苗先輩にメールしようかどうかを話していた。秋穂が「やめたほうがいいんじゃない」と言ったのもあり、やっぱり会ったときに訊いてみようと思った。

「香苗先輩って頭いいの?」と秋穂が唐突に訊いてくる。

「ううん、全然」と麻里は笑いながら首を振った。「たぶん私よりもひどいと思う」

「あっ、そうなんだ…」と秋穂も小さく笑った。

「いや、でも地頭はいいと思うよ」

「地頭?」

「いや、何て言うの……ただのバカじゃないっていう意味」

「ああ」と秋穂は頷きながら答えた。「頭が悪いわけじゃないんだ」

「うん」と麻里は弁当に箸を伸ばしながら頷いた。「あと、めちゃくちゃいい人だから」

 弁当を食べ終わった後も、二人は受験について喋っていた。そのときに、香苗先輩はまだ受験中の可能性が高いことも分かった。

 過去に聞いた志望校の名前を上げると、秋穂は「じゃあ、まだ終わってないかもね」と教えてくれた。

 少し見てみると、涼や俊平たちもサッカー部の先輩たちの受験について喋っているようだった。

 ただ、沙紀はサッカー部の先輩たちを知らないからか、少し退屈そうに片手で頬づきながら聞いていた。そこに玲奈の姿はなかった。(第30話に続く)

第30話「部活ばかり」

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