長編小説

【全46話】小説『チャイム』概要・あらすじ【男女四人が織りなす青春ストーリー】

概要・あらすじ  四月の春、西北せいほく高校ではクラス分けが行われ、二年三組のメンバーが発表された。担任は、本条ほんじょう紗子さえこ。主人公は四人の生徒――真面目でストイックな関谷せきや涼りょう、周りから愛されて頼りにされる岡本おか...
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エピローグ「数年後」

 会場に足を運ぶと、教え子たちは立ちながら喋っていた。いち早く気づいた女子グループから「あっ、紗子先生!」と呼びかけられた。 「私のこと分かりますか?」と女子グループの一人が訊いてくる。  名前を答えると、彼女は「ああ、覚えて...
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第44話「ループシュート」

 火曜日の放課後、秋穂は廊下で立ちながら待っていた。少しすると、ゴミ捨てから帰ってきた俊平が「あともう少しで終わる!」と教室に入っていった。  秋穂は寄りかかっていた壁から背中を離し、ドアから頭を出して教室内の様子を見てみると、彼は...
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第43話「手紙」

『麻里へ 約二年半、一緒にマネージャーをやってくれてありがとう。 麻里にはたくさん助けられたし、すごく頼りになる後輩だったよ。 先輩らしいことは全然できなかったけど、麻里がいたから楽しい時間を過ごせたよ。 本当につらくなったら弱音を吐いて...
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第42話「学級新聞」

 階段の踊り場の壁には、今月の学級新聞が張り出されていた。もちろん、テーマは体育祭だ。手書きっぽい字とイラストでポップに伝えられていた。  また今年も、色別対抗リレーのほうが大きい見出しとなっていた。去年も応援合戦よりも大きく伝えら...
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第41話「体育祭当日」

 空気はからっと乾いていたので、気温ほどの暑さは感じなかった。  ただ、汗は絶えずに流れ出てきていた。額につけているハチマキが汗止めヘッドバンドのようになっていた。  正直なところ、不安で仕方なかった。サッカーの試合前とは違う...
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第40話「嫌な思い出」

 チャイムが鳴った直後、あちこちからシャーペンの転がる音がした。麻里は運動して疲れたのとは違う疲労を感じていた。緊張から解き放たれたような感覚だ。  手を膝にのせたまま大きく空気を吸い込み、鼻だけからゆっくりと長めに吐き出した。その...
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第39話「本当はやりたくない」

「オッケー、プリーズ、リピート、アフター、ミー」  それを聞き、少し意識を戻すように教壇へと目を向けた。今は音読の練習だ。本条先生が読み上げた英文をくり返している。秋穂はほとんど口パクのように音読していた。  その途中、教室の...
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第38話「唯一の曜日」

 木曜日はチア部も、サッカー部も活動がなかった。平日の中では唯一の曜日だった。  終礼後、涼は廊下の壁に寄りかかり、日直が終わるのを待っていた。その途中、ほうきを置きにきた俊平が「沙紀待ちか?」と訊いてくる。 「ああ、うん」 ...
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第37話「裏切り者」

 窓を開けると、ゆったりとした風が入ってくる。誰かに手で包み込まれているような心地よさもあった。下敷きで扇いで起こる力よりもはるかに弱々しい風で、ゆっくりと頬の形に沿って通り抜けていった。  ただ、たまに閃いたかのように強めの風も吹...
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第36話「高三の春」

 桜の花びらが紙吹雪のように舞い、螺旋階段のように優雅に降っている。今日は少し風が強いので、窓がガタガタと音を立てて揺れることもあった。  教室の窓から、麻里は人間の後頭部を覗き込むかのように桜の木を見ていた。目にしているものは同じ...
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第35話「今回は誘っていない」

 太陽の光が窓越しに当たり、身体は少し火照っていた。ほぼ直射日光のようだった。朝は少し肌寒かったので、薄いセーターを着てきたけど、今となっては必要ないと感じた。  滴とはならないほどの汗をかいていて、制服や下着の中はほんのりと蒸れて...
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第34話「最後の体育祭」(後編)

 桜の花びらを見ていると、風向きがすぐに分かった。左から右へと流れている。  西北高校の桜は濃いピンク色をしていて、強めの風が吹くと視界の多くがピンク色に染まり、万華鏡を覗いているような輝きも感じられた。  地面に落ちている花...
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第33話「久しぶりの感覚」

 あの二人の話題はいまだに少し続いていた。正直なところ、自分は飽き飽きとしていた。というか、それがごくごく普通の感覚だと思っていた。  ただ、いまだに涼のことを羨ましがるやつもいれば、中には少し下品な想像を喋っているやつもいた。妄想...
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第32話「少し浮いた存在」

 寒暖の差は次第に激しくなり、風はただ単に冷たいだけでなく、生暖かいときも少なくなかった。日によってはシャツやブレザーだけでも過ごせた。  三学期も終わりに近づいていて、あと残り二週間ほどとなっていた。  ほとんどの先輩たちは...
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第31話「静かな失恋」

 もう何度目かさえも分からなくなっていた。というか、過去に一度も両想いになったことがなかった。  だんだんと慣れてきているけど、今回のショックは少なくなかった。  また相手が沙紀だと知ったときは、何もかもが分からなくなるような...
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第30話「部活ばかり」

 ひどく冷たい風が流れていたので、寒さによる痛みさえも少し感じた。  何の理由で開けられたのかが分からない窓を閉めた後、涼は鼻の奥に液体を感じたのでそばを吸うような音を立てていた。ただ、鼻水が喉のほうにまで流れてしまい、少し吹き出す...
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第29話「その後の反響」

 やっぱり、お似合いだった。もちろん、涼と沙紀のことだ。  二人が喋っていると、もう二人だけの空間となっていた。あの中に割って入ることは、少なくとも自分にはできなかった。二人ともスタイルがいいから、二人が揃うと結構な迫力もあった。 ...
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第28話「二人の交際」

 廊下側から三列目。窓側から四列目。前から二番目。教卓から二メートルほどしか離れていない。今回は外れくじを引いてしまった。  少し顔を上げれば、すぐに先生と目が合ってしまう。でもだからといって、教卓に最も近いわけでもないので、話のネ...
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第27話「木曜日は嫌い」

 本格的に寒くなってきていた。地面に散らばっている落ち葉さえも少し寒そうだった。  ここ最近、練習や試合では男子部員のベンチコートを借りて過ごしている。ただ、どれもこれもサイズが大きいので、袖をまくらないと手を出すことができない。俊...
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第26話「疲れ気味」

 木曜日の昼休み、いつも以上に口数が減っていた。  沙紀が「今日、何か疲れ気味じゃない?」と訊いてきたが、涼は「いや、別に疲れてないよ。ただちょっと眠たいだけ」と答えた。 「そりゃ疲れるよな?」と俊平は言った。「なんで今日に練...
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第25話「ミニテスト」

 朝がやってくると、いつものように一悶着が起こった。  母は「早く起きなさい!」とカーテンをさっと開け、浩太は「分かったって…」とうっすらと目を開けた。  寝ている間は気づかなかったが、目覚めてから寒さを強く感じる。だからずっ...
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第24話「最後が終わっていく」

 だんだんと最後と呼ばれるのが終わってきていた。最後の文化祭に、最後の修学旅行。  西北高校には、高二の文化祭が一つの節目となっているような風潮があった。浩太は「特に帰宅部にとっては、この文化祭の終わりがね、勉強のはじまりなんだよ」...
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第23話「朝日」

 日の光が海に反射してより輝いて見えた。光の筋は綺麗にまっすぐと伸びている。  どこかへと導いてくれる道のようにも見えたし、ずっと見ていられそうなほどに綺麗で美しく感じた。  腕時計で時刻を確認した後、秋穂は通学路から外れて海...
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第22話「かつてないほどに緊張した告白」

 四時間目が終わると、拓が身体を揺らしながらやってきた。右手には、いつもよりも大きく見える水色の袋があった。  彼が椅子に座ったとき、ある男子が「寒いから、窓閉めてほしい!」と叫び伝えた。それを聞き、たまたま窓際にいた麻里は返事もせ...
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第21話「文化祭当日」

 朝日はまだ産まれたてのようで、そんなに眩しさを感じさせない。ただ、周りにいる人は横目にも見ていないようだった。ほとんどの人が俯いている。  涼はいつも以上に早く登校していたが、周りにいる人の数はまったく少なかった。もちろん偶然では...
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第20話「ダブル遅刻」

 やっぱり、電車は空いていた。  駅構内を歩いている人も、いつもとは違う人たちだった。サラリーマンの姿は明らかに少なかったし、朝のラッシュ時にはほぼ見かけない、杖をついたお婆さんもいた。  今朝目を覚ますと、朝の十時近くになっ...
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第19話「冬のはじまり」

「ありがとうございました!」  本条先生が「はーい。じゃあ、机を後ろに」と言うと、俊平は「とりゃあー!」と叫びながら持ち上げずに押していた。机は倒れずに綺麗に収まった。  ただ、その様子を見ていたからなのか、先生は「床が傷むか...
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第18話「あくまで好きと伝えるだけ」

 日の光は降り注いでいるけど、暖かさはまったくといってなかった。飲み物を外に置いていれば、たぶんすぐに冷めたり、冷えたりするような寒さがあった。ちょっとした冷蔵庫のようだ。  風は草先が少し揺れるくらいにしか吹いていないので、ただの...
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第17話「誤解」

 今日の気温は過ごしやすいほうだったが、風は強かった。といってもずっと吹き荒れているわけではなく、ときどき凄い勢いで駆け抜けていくといった風だ。  部室の前で着替えていると、涼は腕で顔を覆う場面に何度か見舞われた。目に砂が入るのは防...
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